■重大な消防法令違反対象物とは
平成27年に総務省消防庁から全国の消防機関へ通達され、特定の消防用設備が未設置又は機能不全である防火対象物を「重大な消防法令違反対象物」と位置づけ、厳重な指導にあたるよう通知がなされました。業界では「重大違反対象物」と呼ばれています
■該当する消防用設備
〇自動火災報知設備
〇スプリンクラー設備
〇屋内消火栓設備
これらが未設置又は機能不全の場合に該当します
このうち、自動火災報知設備、スプリンクラー設備は火災発生時に自動的に作動する消防用設備であり、機能不全により作動しない場合、その被害は計り知れないものとなります。
未設置の場合には論ずるに値しませんが、せっかく設置されている消防用設備がいざというときに機能しない状態を知りながら放置しているとしたら、その悪質性は非常に高いものと判断されます。
■重大違反対象物に対する措置
重大違反対象物に対する措置については、総務省消防庁から非常に強い要求がありました。
①行政処分を視野に入れて指導にあたること。
長期間消防の指導を無視し、設置又は機能不全の改修を試みなかった関係者に対しては、行政処分の方法により積極的に指導を行うこととされました。
行政処分とは具体的には防火対象物改修命令、使用停止(禁止)命令、消防用設備等設置維持命令、行政代執行などです。
命令関係根拠法(原文)
②行政処分によっても改善が認められない場合
使用停止命令等の行政処分を行っても、なお改善の意思を示さない関係者に対しては、刑事告発等により対応することとされ、違反処理マニュアルに当該告発等に至るべき手順が示されました。
違反処理マニュアル(抜粋)
とても細かいので要約すると、
1 重大違反の覚知
2 是正指導
期限付き。規模により3か月~4か月以内
↓改善されない場合3へ
3 行政処分(命令)を前提とした「警告書」の交付
再度改修期限を設定。
↓改善されない場合4へ
4 行政処分。「命令書」の交付
・消防用設備等設置維持命令(消防法第17条の4)
・防火対象物使用停止命令(消防法第5条の2)
など
再度改修期限を設定。
ここまでに改善されない場合、このタイミングまでに実況見分を行い違反事実を確定し、さらに登記情報や住民票など書証を収集して捜査機関へ告発します。
実況見分や書証収集のタイミングは消防機関によって様々です。
↓改善されない場合は5へ
5 告発
・捜査機関へ告発する。
・裁判所へ非訟事件訴訟法に基づき過料事件の通知を行う。
6 送検され裁判へ
法令違反の事実は実況見分で明らかにされているので、要件等の確認が済み次第送検され裁判となります。
判決を受け、罪が確定し、刑の執行を終えても違反を改善しなくてよいわけではありません。
違法な状態で事業を継続しているのならば、何度でも違反処理は行われます。
■罰則
重大違反に関係する罰則は以下のとおりです。
第39条の2の2(防火対象物使用停止命令違反)
第5条の2第1項の規定による命令に違反した者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
第39条の3の2(防火対象物改修命令違反)
第5条第1項の規定による命令に違反した者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する。
第41条
次のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
1 第5条の3第1項の規定による命令に違反した者
5 第17条の4第1項又は第2項の規定による命令に違反して消防用設備等又は特殊消防用設備等を設置しなかった者
第44条
次のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金又は拘留に処する。
12 第17条の4第1項又は第2項の規定による命令に違反して消防用設備等又は特殊消防用設備等の維持のため必要な措置をしなかった者
第45条(両罰規定)
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
1 第39条の2の2第1項、第39条の3の2第1項又は第41条第1項第7号
1億円以下の罰金刑
このように、最大で1億円というとても大きな罰則を背負うことになります。
重大違反に対しては、その専門員である「予防技術員」というものが全国の消防機関に配置されており、重大違反対象物には直ちにこの「違反処理」を行なうことができる体制が整っています。
どんな理由であれ、お客さんや従業員等が危険にさらされる可能性を放置してはいけません。
消防用設備や防火管理を含め、消防法を順守することは防火対象物に出入りするすべての人の安全を確保することにつながります。